三井ホームが2020年11月より東京都稲城市において工事を着手していた、木造大規模中層マンション「モクシオン稲城」(5階建て1階RC造、2階~5階木造枠組壁工法)が竣工し、内覧会が行われました。
この計画は、「国土交通省令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に普及性の高い木造大規模中層建築プロジェクトにも採択されています。また、この事業は『木でつくるマンションプロジェクト』として 2021年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)も受賞しています。 プロジェクトの特徴と内覧会で感じた木造マンションのメリットを紹介します。
◆建物概要
所在地:東京都稲城市百村 1625-1
交通:京王相模原線「稲城」駅徒歩 4分
法定延床面積:3738.30㎡(1130.83 坪)
総戸数:51戸
住戸タイプ 2LDK(50.82 ㎡~56.10 ㎡)48戸
3LDK(69.89 ㎡~96.14 ㎡)3戸
設計 施工:三井ホーム株式会社
躯体パネル製造: 三井ホームコンポーネント株式会社
デザインアーキテクト:株式会社アーキヴィジョン広谷スタジオ
着工:2020年 11月
竣工:2021年 11月
劣化対策等級3を取得予定 適切な維持で75年~90年の耐久性を確保
地球温暖化防止のための低炭素社会の構築に向け、再生可能な循環資源である「木材」を利用する木造建築への期待は世界各国で高まっています。アメリカ(西部地区)における集合住宅は、70%~80%が木造によるものであり、森林資源が豊富なカナダのブリティッシュコロンビア州においては、2009年のウッド・ファースト法の施行をきっかけに6階建までへと木造建築物の高層化が進んでいます。
日本においても木造枠組壁工法は、2004年の「1時間耐火構造」の大臣認定取得、2010年施行の「公共建築物等木材利用促進法」を受けて施設系建築物(非住宅)が増加傾向にあります。
さらに2016年に「2時間耐火構造」の大臣認定を受けることで、木造枠組壁工法による5層以上の建設が可能となりました。今後木造による中層以上の建築物の普及をはかる上で、さらなる技術性能向上とコストダウンが求められています。
三井ホームは、これまで海外では、北米を中心に木造による中層集合住宅の建築に携わり豊富な実績があります。また、国内においても2016年に国内最大の木造枠組壁工法による施設系建築物を建築するなど、木造の施設系建築物の実績を積んできました。今回、竣工した「モクシオン稲城」は、5階建ての木を活用した中高層住宅。同社の社有地に建てられ、先進的な技術によって中高層の木造の賃貸住宅として利用されます。
同プロジェクトでは、国内で木造の中層集合住宅の普及を促進するため、耐久性・省エネルギー性・遮音性を高め、かつ建築コストを低減する新技術を導入しています。
建物は、住宅性能表示制度における劣化対策等級3を取得予定。建物の適切な維持管理により75年~90年の耐久性を確保することで木造建築の市場価値向上を図ります。また、同制度における省エネルギー対策等級4も取得予定。建物の気密性・断熱性を高め、冷暖房等のランニングコストを低減します。
木造の住宅でまず懸念されるのが耐久性です。工法やメーカーによってバラツキがあり諸外国と比べても、日本の木造住宅の耐用年数は短い。税法上でも一般的な木造住宅の減価償却期間は、22年間で鉄筋コンクリート造の住宅とくらべ短く、資産価値の面で比べても木造の方が不利になっています。
三井ホームが提案するサスティナブル木造マンションブランド「MOCXION(モクシオン)」では、エンジニアリングレポートによって耐久性を証明し、税法上でも鉄筋コンクリート造と同等の耐用年数が認められるように取り組むとのことです。
鉄筋コンクリートよりも工事原価を約10%削減 遮音性も配慮
国内において、中層の建築物を木造化する場合、規定の構造性能と耐火基準を満たすためには、構造壁が厚くなることなどが設計上の課題とされてきました。三井ホームでは、その課題を解決するために、木造中層建築物で耐震等級3の実現を可能とする高強度耐力壁を開発。枠組壁工法においては、国内最高レベルの壁倍率30倍を実現しています。
これにより、従来と比べ壁厚を約半分に減らすことができ、建物の有効床面積が増加し、設計自由度も高められています。また、従来よりも土台や梁の本数も削減できることに加え、パネル化により工期の短縮をはかることもできるため、建築コストの低減にも繋がります。同社の話では、鉄筋コンクリート造と比べて約10%程度建築費が抑えられるとのことです。
さらに木造建築の場合に課題となるのが遮音性です。マンションタイプの賃貸住宅と木造などのアパートの賃貸住宅を比べると、アパートタイプの方が空室率が高くなっていますが、筆者は音の要因が大きいと考えます。
「モクシオン稲城」では、「高性能遮音床システムMute(ミュート)」の採用。鉄筋コンクリート造と同レベルの遮音性能を得ています。中層の建築物を木造化する場合、RC造と比べ軽量化等のメリットがある一方で、高い遮音性の確保が普及のための課題となります。RC造の集合住宅で求められる要求性能(衝撃音LH-55以下、軽量衝撃音LL-45以下)と同等程度の遮音性能を実現しています。
三井ホーム独自の「制振パッド」が高い衝撃吸収性能と心地良い歩行感を実現。さらに、下階の天井を支持する吊天井根太の接合部材に独自の防振天井根太受金物を採用し、上階の衝撃音の伝播を低減しています。内覧会では、上下階に分かれ実際に音を体験しました。小走りではほとんど聞こえないレベル。大きくジャンプすると流石に聞こえましたが、これは通常のマンションでも聞こえる程度の音。遮音性は、かなり改善されています。
さらに国産材(カラマツ)による枠組壁工法用製材(2×10材)を本建物の床組みの一部として採用しています。国産カラマツ材を枠組壁工法用製材(2×10材)の床根太として採用するのは、日本初の取り組みとのことです。
国産材の枠組壁工法用製材は、これまで2×4材や2×6材など小断面の生産に限定されていました。日本の森林は、立木の大径化と利用促進が課題となっており、本規格材は新たな国産材の用途として今後の活用が期待されています。
環境にもやさしいと若い層に人気 約9割の住戸に申込が入る
「モクシオン稲城」は、京王相模原線「稲城」駅徒歩4分という郊外立地をふまえ大半の住戸が50㎡台の2LDK タイプ。南西向きと北東向きがあり内廊下設計になっています。家賃は、共益費をあわせると13万円以上で、地域性を考慮すると相応の設定にはなっていますが、既に約9割の住戸が申込済み。地元の30代が中心ですが、木造マンションという目新しさもあり他県からの申込もあるようです。
申込者に実施したアンケートによれば、木造のマンションであることもモクシオン稲城を選んだ決め手になっているとのこと。Z世代と呼ばれる今の若い世代は、環境に対する意識が高いとも言われています。環境に優しい住まいを選ぶということも、サスティナブルな未来をつくる意思表示なのかもしれません。
三井ホームでは、モクシオン稲城を出発点に、さらに耐久性や耐火性、遮音性などの強化に努めるようです。これから人口減少社会を迎える中で、土地オーナーの有効活用は悩ましいところですが、環境に優しく若者にも支持されコストも抑えられる木造マンションは、十分選択肢になるのではないでしょうか。既に、土地オーナーや業界関係者の見学申し込みは、2000件を超えているようです。今後の木造マンションの動向に注目したいと思います。
【編集後記】内覧会に参加して、鉄筋コンクリート造のマンションとほぼ変わらないつくりに驚きました。SUUMOやホームズなどのポータルサイトとも協議し、これまで木造だったらアパートに分類されていた掲載のカテゴリーが、モクシオンについてはマンションになるとのことです。国土の約7割が山の日本は、森林資源が豊富にあります。有効活用されることで、住まいの選択肢が今後増えるといいですね。