「Reborn With Love」 ―半世紀の歴史を経て、新たな「物語」始まる 横浜市最大級団地建替え事業『プロミライズ青葉台』2026年1月末、第一工区引渡し開始 建物見学会参加

マンション探訪記
「プロミライズ青葉台」の外観(筆者撮影)

桜台団地マンション建替組合が主体となって事業を進めている、横浜市最大級の団地建替えマンション「プロミライズ青葉台」(総戸数761戸)の一部街区が竣工しまもなく引渡しが始まる。横浜市住宅供給公社および株式会社URリンケージが、建替組合が主導する「桜台団地マンション建替え事業」を伴走支援。プロジェクトの実現は、「組合員が主役」であることを徹底したことが最大の要因という。

多くのマンション・団地建替えは「デベロッパーが計画を提示→組合員が賛否を問われる」という受け身の流れで進むが、桜台団地では「自分たちで考え、決める」「横浜市公社とURリンケージは助言者、決定者は組合員」この原則を最後まで守り抜いたことが、“信頼”を核にした合意形成につながった。完成した現地を見学しその成果に迫る。

横浜市最大級の団地建替え事業『プロミライズ青葉台』が竣工

「プロミライズ青葉台」の外観 (ステーションサイド)(筆者撮影)

横浜市最大級の団地建替え事業『プロミライズ青葉台』が竣工した。1966年に竣工した「桜台団地」(4階建、18棟、総戸数456戸)の建替えプロジェクト。他の団地と同様に、建物の老朽化や組合員の高齢化が進んでいく、“2つの老い(建物と人)”に直面した。

桜台団地では、「時代の変化に応えながら、自分たちの桜台団地をどうしていくか、半世紀の暮らしの記憶をどう引き継ぐか」という難題に挑み、時代とともに多様化するニーズを取り込みつつ、組合員自身が未来を描くため「建替え」という再生手法を選択した。

築40年以上の老朽マンション・団地は全国で推計約148万戸とも言われており、今後の将来を見据え、建替えるのか、修繕し維持を続けていくのか判断をする時期に来ている。全国各地ではこうした議論が交わされる中で、最大のネックは組合員の合意形成だ。

「プロミライズ青葉台」の竣工内覧会での様子(筆者撮影)

桜台団地が建替えを実現した4つのポイント
(1) 自分たちで考え、決める・・・各自が「修繕・建替え」の判断ができるようにすることを活動方針とし、建替えの賛成を求めるのではなく、否決でも良いので棄権せず一人ひとりが意思決定できる情報の共有に徹した。

(2) 検討を主導する委員会は中立の姿勢をとる・・・団地内が賛成派と反対派に二分した経験から、中立・透明性を重視した情報提供を繰り返した。いずれかの手段に誘導するのではなく、それぞれのメリット・デメリットを一人ひとりに客観的に提示し、中立姿勢をとる委員会の活動に、理解と信頼感を得られた。

(3) 横浜市公社とURリンケージは助言者、意思決定は組合員・・・横浜市公社とURリンケージは、あくまでも中立的かつ専門性のある伴走者として、検討体制や進め方への助言・計画策定支援・合意形成の実働(個人情報が絡む個別面談等)をサポート。外部専門家や有識者からの客観的な情報を得つつ、最終決定は常に組合員が行う体制を確立した。

(4) 段階的・双方向の合意形成・・・合意形成のプロセスで最も重視されたのは、スピードではなく納得でした。建替え決議の時期を1年半延期し、全戸に対して2回以上の個別面談を実施。「建替え相談室」を設け、費用・仮住まい・生活不安について常時相談可能にするなど、組合員の声を丁寧に拾い上げることで、「反対ではない」「理解はできる」という共感の層が広がった。

「プロミライズ青葉台」の建替えは、単に古い建物を新しくする事業ではなかった。組合員のキモチをカタチにする、「安心・安全・快適な空間創り(ハード)」と「住民同士がゆるやかにつながる関係性や仕組み作り(ソフト)」の両面から、あらたな“まち”のあり方を探求した。

「プロミライズ青葉台」のグリーンプラザ(イーストコア)(筆者撮影)

◆バリアフリー動線:敷地高低差を解消するエレベーター連結設計により、高低差約24mの坂道の課題を克服
◆ユニバーサルデザイン:子育て世帯から高齢者まで安心して暮らせる住戸・共用空間
◆防災配慮:非常用発電機、かまどベンチ、マンホールトイレを整備し、万一の際の対応力と日々の安心感を高めます。
◆緑地再生:約110樹種 、中高木だけでも1,500本を超える樹木を新たに植樹。緑に包まれた住環境を再生。桜台団地で育った既存樹も再利用し、共用部家具として生まれ変わります。
◆日々の生活を快適に:無人コンビニ「TUKTUK」、シェアサイクル「ダイチャリ」など、快適で持続可能な日常を支援。

「プロミライズ青葉台」の共用棟(筆者撮影)

多様な活動が行われていくことを目的に、「ゆるやかなつながり」をつくる場を整備。イベントでの利用だけではなく、様々な過ごし方ができ、自然と交流が生まれるような空間を創出した。また、LINEポータルを活用し、情報共有・交流から防災・安否確認もオンライン化。日頃の利便性の向上、居住者間同士の交流やイベント、災害時には、必要な情報がより確実に届けられるような仕組みも構築。さらに、「AOBAFUL LIFE」と銘打ち、引渡し前から、既存樹を活用したワークショップや地元商店会などとの地域共創・多世代の交流のきっかけづくりイベントを実施した。(全15回)

◆プロジェクト年表
桜台団地➡プロミライズ青葉台の歩み
1966年(昭和41年)桜台団地竣工(全18棟・456戸)。高度経済成長期の郊外住宅として入居開始。
2004年(平成16年)理事会の諮問機関として組合員らによる「建替え調査委員会」を設置。
2006年(平成18年)民間デベロッパーと建替えコンサルタント契約、事業者主導の「建替え」検討、頓挫。
2007年(平成19年)リーマンショック等による「建替え」検討の減速。
2008年(平成20年)「土地建物検討委員会」を設置。透明性の確保、比較検討を組合員主体で再開。有識者・専門家を招いた講演会等も開催。
2010年(平成22年) 横浜市住宅供給公社がコンサルタントとしてサポート開始。
2012年(平成24年)「建替え推進特別委員会」を設置。横浜市住宅供給公社を「建替え推進コンサルタント」に選定。(以後継続)みんなの“きもち”アンケートなど組合員意見を集約。
2015年(平成27年)建替え推進決議可決。建替え相談コーナー開設(集会所・毎週)。
2016年(平成28年)組合員自ら基本設計業務を株式会社松田平田設計へ発注(設計費約1億円超)。株式会社URリンケージがサポート開始。
2017年(平成29年)横浜市住宅供給公社を事業協力者に選定。
2018年(平成30年) 株式会社URリンケージが事業協力者の構成企業に参画。合意形成を後押し。個別面談(全戸)を実施し、建替え決議集会の時期を2019年10月に決定。
2019年(平成31年・令和元年)一括建替え決議を実施。法定要件を満たし可決。
2020年(令和2年) 建替組合設立。
2021年(令和3年) 団地解体着手。
2022年(令和4年)「プロミライズ青葉台」建設着工。
2026年1月 第一工区引渡し(予定)
2026年6月 第二工区引渡し(予定)

物件概要
所在地 神奈川県横浜市青葉区桜台28番 他(地番)
交通 東急田園都市線「青葉台」駅徒歩10分 ※ブロックにより異なります
総開発面積 44,635.66m2
建物構造 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造 5階建 他
総戸数 761戸(うち非分譲住戸205戸)
引渡し予定時期 2026年1月~2026年6月※ブロックにより異なります
事業主 桜台団地マンション建替組合
参加組合員 横浜市住宅供給公社、株式会社URリンケージ
設計・監理 株式会社松田平田設計 施工 五洋建設株式会社

住み心地に配慮した、ランドスケープデザイン 住戸性能も充実している

「プロミライズ青葉台」の敷地内通路(筆者撮影)

「プロミライズ青葉台」の敷地および建物内を見学して感じたのは、高低差のある不整形な敷地であるにも関わらず、とても住みやすくデザインされていること。5つの街区を各棟の専用エレベーターを経由してアクセスすることで、高台の良さを活かしつつスムーズに往来が可能に。共用施設を各棟にも設けることで、日々の生活にも配慮されている。

「プロミライズ青葉台」の共用棟のスタディスペース(筆者撮影)

例えば、スタディスペースとラウンジは、どの棟にも設けられているので長距離の移動は不要。またサウスコアにある共用棟は、敷地の中央近くに設けているので、どの棟からもアクセスしやすくなっている。

「プロミライズ青葉台」のラウンジ(パークサイド)(筆者撮影)

「プロミライズ青葉台」のスタディスペース(ステーションサイド)(筆者撮影)

「プロミライズ青葉台」のシアタールーム(筆者撮影)

「プロミライズ青葉台」のスタディスペース(イーストコア)(筆者撮影)

また、ステーションサイドとイーストコアは、公開空地で通り抜けができるようになっており、地域とのつながりも意識されている。建て替えに向けての丁寧な熟議の成果とも言えるだろう。

また、ディスポーザーや食器洗い乾燥機を標準装備するほか、玄関に折りたたみスツールを設けるなど、設備スペックも充実している。低床式の浴槽かつ、玄関、トイレ、浴室にもあらかじめ手摺りを設置しているのも高齢者にはうれしい。

分譲契約者データによれば、20代9%、30代45.3%、40代16.9%、50代12.5%、60代超16.3%となっており比較的若い世代も多く購入する結果となっている。坪単価が、290万円台と値ごろ感があったこともあり、早期完売となったが、「プロミライズ青葉台」ならではの商品性の高さも評価されてのことだろう。

建築費高騰の影響もあり、建て替え事業の難易度はこれからさらに増すことが予想される。桜台団地では、建替えありきではなく大規模修繕と変更して議論を進めたことが結果につながった。横浜市住宅供給公社に伴走してもらったことも大きかったという。築年数の古いマンションは、これからも増加し続けるが、住民が主体となって議論することの大切さが、本件でよく理解できた。