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90年の歴史を継承する「九段会館テラス」が竣工

九段会館テラスの正面玄関前ファサード ニュース&トピックス
九段会館テラスの正面玄関前ファサード

「九段会館テラス(KUDAN-KAIKAN TERRACE)」が竣工しました。「水辺に咲くレトロモダン」というコンセプトのもと、登録有形文化財建造物である旧九段会館を一部保存しながら、最新テクノロジーの活用や企業の健康経営など、現代の様々なニーズを具現化し、建て替えたプロジェクト。歴史的建造物を創建当時の技術・素材を活かして保存・復原を行い、IoTを活用した地上17階建ての最新鋭のオフィスを新築。新旧が融合した、レトロモダンな施設が誕生しました。事業者は、東急不動産、鹿島建設が出資する事業会社です。

九段会館テラス内のビジネスエアポート九段下内の様子

九段会館テラス内のビジネスエアポート九段下内の様子

施設内には東急不動産が展開する会員制シェアオフィス「ビジネスエアポート九段下」と、これに併設し、「九段食堂 KUDAN-SHOKUDO for the Public Good」、「九段会館テラスコンファレンス&バンケット」、クリニックモールや店舗など、様々な付帯施設を備えています。

九段会館テラスのクリニックモール

九段会館テラスのクリニックモール

2022年10月1日(土)の開業に先駆けて、9月中旬に「九段ひろば」の一部で近隣の保育園児を招いた植栽イベントを開催する予定です。

「九段会館テラス」施設概要
名称:九段会館テラス(KUDAN-KAIKAN TERRACE)
事業主体:合同会社ノーヴェグランデ ※東急不動産、鹿島建設が本プロジェクトのために出資する事業会社
所在地:東京都千代田区九段南一丁目6番5号
交通:東京メトロ半蔵門線・東西線、都営新宿線「九段下」駅徒歩1分
用途:事務所、店舗、集会場、駐車場等
敷地面積:約 8,765㎡
延床面積:約68,036㎡
構造・規模:S造(CFT造)・RC造・SRC造 地下3階地上17階
高さ:約74.9m
設計者:鹿島・梓 設計・工事監理業務 共同企業体
施工者:鹿島建設株式会社
竣工:2022年7月29日
開業:2022年10月1日

 90年前の職人技と素材を活用した新旧融合デザイン

旧九段会館は、「軍人會舘」として竣工したのが1934年。終戦後は、GHQに接収されたのちに1957年にレストラン・結婚式場として再開業しました。

建物は、帝冠様式とよばれる大正末期から昭和初期に公共機関の建築に用いられた建築様式。コンクリート造の建物に勾配屋根を塔屋とパラペットに冠したもの。建材に国内外の質の高い素材を取り入れ、当時の最新技術が組み合わせ造られました。

九段会館テラスの外観ファサード

九段会館テラスの外観ファサード

「九段会館テラス」では、現代では入手や再現が困難な90年前の職人技と素材からなる旧九段会館を、建物北側と東側部分のL字状に保存。保存部分と新築部分が一体となったデザインを採用しています。

バンケットルームは、戦前の絵はがきや写真などの創建当時の資料をもとに、床材をヘリンボーン張りのフローリングに変更。壁紙は特注織物のクロスへの張り替えなどを実施することで、創建時の姿を復原しました。

九段会館テラスの玄関ホール

九段会館テラスの玄関ホール

建物正面の玄関ホールは、創建当時から床や壁に用いられてきた大理石を活用。大理石に違和感なく溶け込むよう、床や天井なども創建時の素材に近い風合いでありながらモダンさを併せ持つ建材を厳選し、レトロモダンな空間を演出しています。

九段会館テラス内のゲストルーム 葵

九段会館テラス内のゲストルーム 葵

また、ゲストルームは、これまで応接室・役員室として使われていた部屋。補修・復原し、「ゲストルーム 雅・葵」として再生。90年前の雰囲気そのままに、寄木貼りの床や絹織物(紗織)の天井、セレクトしたデザイン性の高い家具がオーセンティックな空間を演出しています。

保存建物は、免震レトロフィット工法採用 最新テクノロジーも

九段会館テラスのフロアガイド

九段会館テラスのフロアガイド

17階建ての新築オフィスは制震構造、保存部分の建物は免震構造を採用しています。保存部分の免震化を図るために採用されたのは免震レトロフィット工法と呼ばれる東京駅丸の内駅舎等に採用された工法。地震が発生しても基礎に設置された免震装置により建物が地盤から分離されているため、揺れや被害を最小限に食い止めることが可能です。

創建時のまま残されている外壁には、経年により風合いを増したスクラッチタイルや擬石を活用できるよう、温水高圧洗浄や表面微細研磨を行ったうえで、スクラッチタイルには約54,000本、擬石には約7,300本のアンカーピンニングを実施し、再現性と安全性を両立しています。

九段会館テラス外観

九段会館テラス外観

また、国内オフィスビル初となるスマートガラスやIoTソリューションなど最新テクノロジーも融合しています。スマートガラス「View Smart Glass」は、建物屋上に設置したセンサーとAIにより、太陽の位置や天候に合わせてガラスの透過率を4段階で自動調整。室内に差し込む自然光・熱量を最適化して空調や照明によるエネルギー消費量の削減を可能にします。プラザ・地下1階に採用することで、⻄側に面するお濠や皇居の緑を感じながら快適に過ごせます。

九段会館テラス内のプラザ

九段会館テラス内のプラザ

さらに、データ連携基盤「Smart City Platform」を活用し、施設内の混雑状況検知をはじめとする IoTソリューションを一元運用。ICカード連動エレベーターや、非接触・抗菌・換気できる仕組み、吸引式のハンドドライヤーを取り入れるなど、オフィスワーカーが安心して出社できる環境作りを目指しています。

九段会館テラス内のシェアオフィス

九段会館テラス内のシェアオフィス

また、入居企業の健康経営推進をサポートするべく、付帯施設の設置や様々な取り組みを行い、オフィスワーカーのこころと身体の健康にも配慮。シェアオフィスに、MONOSUS社食研が運営する新しい形の職域食堂「九段食堂 KUDAN- SHOKUDO for the Public Good」を併設。食材は全国の農家から直送されるオーガニックなものが中心です。筆者は、ランチメニューを試食しましたがローカロリーでヘルシーなのに、食感が豊かでとても美味しかったです。

九段会館テラス内の九段食堂

九段会館テラス内の九段食堂

内科・皮膚科・耳鼻科・歯科・薬局が集まるクリニックモールを開設しました。身近にクリニックがあることで、これまで通院時間をなかなか確保できなかったというワーカーの疾病治療が期待できます。

九段会館テラスのウエルネスガーデン

九段会館テラスのウエルネスガーデン

保存部分屋上には、一部来館者もご利用可能な屋上庭園と、ラウンジを整備。屋上庭園にはオリジナルの健康家具も配置し、入居テナントのワーカーのリフレッシュタイムはもちろん、緑に囲まれながらのディスカッションなど、様々なシーンで活用できる開放感と緑あふれる空間となっています。

九段会館テラス内のテラス横には蓮の花が咲いている

九段会館テラス内のテラス横には蓮の花が咲いている

なお、日本政策投資銀行が創設した認証制度において、国内トップクラスの「環境・社会への配慮」がなされたビルの証しである「DBJ Green Building 認証」を取得しています。

コロナ禍のなかでも、新館は約9割のオフィスが成約済み

九段会館テラスの17階オフィスフロアからの眺望

九段会館テラスの17階オフィスフロアからの眺望

コロナ禍によるテレワークの普及で、東京のオフィス市場は好調とは言い難い状況ですが、「九段会館テラス」の新館のオフィスフロアは、約9割のフロアが申込みと好調。17階からの景色を見学しましたが、皇居の森が広がる豊かな自然が眼下に。この場所でしか得られない清々しさを感じました。

九段会館テラス内のビジネスエアポート九段下

九段会館テラス内のビジネスエアポート九段下

また、シェアオフィスもスタートアップ企業の引き合いがあるようで、堅調な出だしとのことでした。フリースペースのみなら1人あたり月3万円程度の設定。駅アクセスも良好で、フリーランスも使いやすいのではないでしょうか。

今回の取材で印象的だったのは、新築工事の現場所長である鹿島建設の神山氏からの「当時の職人や匠の技術に感動しました」との言葉。復元・再生する中で、創建当時の技法や工法にふれ驚いたそう。スクラッチタイルや瓦など当時の素材を活かしつつ再生したのは、かつての匠に対するリスペクトといえるでしょう。

九段会館テラスの九段ひろば

九段会館テラスの九段ひろば

かつての伝統を承継することで、そこに関わった人々の思いも受け継いでいます。「九段ひろば」からつながる西側のお濠沿いには、一般歩行者用のデッキ通路「お濠沿いテラス」を、さらに内堀通りから「お濠沿いテラス」へつながる遊歩道「九段こみち」を、千代田区と共に整備しています。地域の発展にもつながる建物の再生プロジェクトは、今後も注目されるでしょう。