全国初の団地容積率緩和適用!「アトラスシティ千歳烏山グランスイート」が竣工

マンション探訪記
アトラスシティ千歳烏山グランスイートの中庭の植栽(筆者撮影)

京王線「千歳烏山」駅近くに誕生する「アトラスシティ千歳烏山グランスイート 杜ノ棟・風ノ棟」が、7月31日に竣工する。旭化成不動産レジデンス株式会社と丸紅都市開発株式会社が参加組合員として参画し、給田北住宅マンション建替組合と進めてきたマンション建替え事業による再建マンション。耐震性不足の老朽マンションに対して容積率制限を緩和する「マンション建替え円滑化法第105条」が団地に初めて適用された事例。従来の7階建て171戸から、4階建て248戸の低層大規模マンションへと再生された。

地域と共に歩んだ再生プロセス 賃貸比率が低かったことも再生を後押し

建替えとなった「給田 2号棟」

給田北住宅の建替えは、住民による10年に及ぶ協議と合意形成を経て実現。旭化成不動産レジデンスと丸紅都市開発が事業協力者として参画し、都市設計連合とともに建替えコンサルティングを行った。都市計画変更により「第一種低層住居専用地域」となった敷地に対し、容積率と高さ制限の緩和を最大限に活用。結果として、敷地にゆとりを持たせながら多世代が共存できる希少な低層マンションが誕生した。

アトラスシティ千歳烏山グランスイートの外観

再生へのきっかけは、2011年の東日本大震災。ひび割れ等の被害があり2012年に実施した耐震診断にって耐震性基準を満たさないことが判明。さらに問題点としてバリアフリーの未整備、電気容量不足や給水・ガスの配管の劣化、オートロックがないなど低い防犯性も。建替えを視野に入れた再生検討が具体化した。

2017年に、事業協力者を募集し2018年に旭化成不動産レジデンスと丸紅都市開発からなるグループを選定。2021年5月に団地建替え一括決議を行い約90%の賛成を経て可決。2022年1月にマンション建替え組合の設立が認可され2022年7月に権利変換計画が認可。2023年7月の着工に至った。

その間、工事費の上昇や第一種低層住居専用地域が広がる周辺戸建て住民への配慮、区分所有者のニーズに応える面積調整など様々な課題があったが、事業協力者のサポートもあり建て替えを実現した。

アトラスシティ千歳烏山グランスイートの外観

新築当初から住んでいる入居者も多く、賃貸住戸は少なかったとのこと。団地所有者167名に対し団地の一括建替え決議では、151名が賛成に回り実に9割の区分所有者が建て替えに同意。非賛成者16名の内、14名は建替え参加者となり、2名はマンション建替え円滑化法に基づく売渡請求権が行使された。築年数が古いマンションは、賃貸への貸出などで所有者と入居者が異なる比率が高くなるケースが多いが、本件では賃貸住戸が少なかったとのこと。このことも合意形成にプラスになったよう。

第一種低層住居専用地域になったことで当初の7階建てでの建築は不可能だったが、貫通道路の設置の工夫などで高さ制限を10mから12mとし4階建てのマンションが設計可能となった。また、マンション円滑化法「容積率の特例」により指定容積率がA棟 103.37%⇒137.27%、B棟 100.00%⇒139.98%に。行政との協議によって、市街地環境の改善に資するプロジェクトが生まれた。

開発コンセプトとして「邸と景が一体となる風景資産の創造」を目指して計画された。

都市景観と共生するランドスケープ設計
– 武蔵野の面影を継承し、世田谷らしい上質な邸宅を目指した設計
– レンガ調タイルとアースカラーによるヴィンテージ感のある外観
– 敷地中央に広がる「中庭」を中心に、最大3.8m幅の歩道状空地を配置
– 屋上緑化や公開空地など、地域住民との共生を意識した空間設計

アトラスシティ千歳烏山グランスイートの光庭

 

 

筆者は、見学会で中庭や屋上テラスなどの共用部と専有部を見学したが、全248邸とスケールがありつつ、第一種低層住居専用地域という良好な住環境に調和した魅力的なマンションだと感じた。

「アトラスシティ千歳烏山グランスイート」は、老朽団地の再生における新たなモデルケースとして、都市政策・住宅開発の両面で注目のプロジェクトだ。容積率緩和の全国初適用は、今後の建替え事業における制度活用の可能性を広げるとともに、地域と共生する都市づくりの参考になりそうだ。

 

編集付記  計画段階から事業化段階で悩まされた工事費の上昇。もしも、今からの着工なら労働関連法の適用による労働時間の総量規制で2年の工期がさらに1年程度伸びたかもしれないとのこと。当然、工事費も大きく上昇するので事業化の難易度はさらに高まったかもしれません。桜上水団地の建て替えプロジェクト「桜上水ガーデンズ」の竣工が10年前ですから建替えプロジェクトの難易度が高まっているのが理解できますね。

奇跡の再生プロジェクト 桜上水ガーデンズを見学(筆者 過去記事 All About マンション