三井不動産グループ、築 250 年の古民家を「ほぼそのままの姿」で耐震改修し継承

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耐震化された古民家(筆者撮影)

三井不動産株式会社と三井ホーム株式会社は、東京都世田谷区にて、江戸時代後期に建築された築 250 年以上の古民家「旧用賀名主邸」の耐震改修工事を2025 年 7 月 31 日(木)に完了した。同社が掲げる経年優化の思想のもと、一般的な耐震工事と比べ解体する箇所を極力減らし、建物の伝統的な意匠を残したまま、「Hi ダイナミック制震工法」の採用などにより耐震性能を向上。安全性の高い物件に再生した。

古民家は、近年注目を集める一方で、地震災害への備え等に課題を抱える。三井不動産レッツ資産活用部が「所有する古民家を最大限残しながら、安全な状態で次代へ残す」というオーナーの意向を受け耐震改修工事の実施を決定。工事は三井不動産レッツ資産活用部が総合計画、三井ホームが設計・施工を担当した。

耐震化された古民家の和室(筆者撮影)

耐震改修工事では、伝統的構法の建物にも設置可能な制震システムを導入。これにより、解体する箇所を極力減らすことで工事費を抑え、既存の床や天井、縁側等の特徴的な意匠を最大限保存した状態で耐震性能を向上させることを可能とた。

一般耐震診断にて評点が 0.3 程度から評点 1.0 相当以上に

耐震化された古民家の縁側(筆者撮影)

耐震改修工事の特徴は、大きく2点。「Hi ダイナミック制震工法」という江戸川木材工業株式会社が開発した技術を採用。古民家のような伝統的構法の建物にも採用可能な制震工法で、建物の壁に複数の制震オイルダンパーを取り付けることで、大地震時の建物の変形を吸収し、柱や梁、壁等への負担を軽減。これにより、床や天井の仕上げ材を極力壊さず、耐震性を満たすことが可能となる。本物件では、建物南側の特徴的な意匠を残すため、南面の居室の天井・床、縁側は仕上げ材も含めて改修は行わず、その他の部屋にて制震オイルダンパーを設置することで建物全体の耐震改修が可能となるように計画した。

2つ目は、 屋根材の変更による軽量化。日本家屋における伝統的構法である柔構造の特性上、従来の重い瓦屋根では地震時に建物が揺れやすくなる。本物件では、屋根材を日本瓦から軽い金属素材へ葺き替えることで屋根の総重量を約 1/16 に抑え、建物全体の軽量化を行った。

■物件概要
所在地 東京都世田谷区上用賀 3-11-3
建物用途 住宅
構造 木造平屋
間取り 4SLK
延床面積 約 220 ㎡
設計・施工 三井ホーム株式会社
スケジュール  2025 年 3 月 着工 2025 年 7 月 竣工

見た目は変わっていないが、得られたのは安心感 受け継がれた資産を守る

耐震化された古民家の庭(筆者撮影)

施工を担当した三井ホームによれば、同様の工法を使って耐震化を行った古民家は、相当数に上るが築250年となると例がないという。もともと、貫工法など木造の伝統工法によって造られた建物だが、耐震診断が0.3という結果が示すように、耐震性に不安のある建物だった。オーナーインタビューでは、「そのままの姿で耐震性を強化できたことがうれしい」と語っていた。延床面積が約220㎡もあるので、建て替えるとなるとかなりの費用がかかる。試算では、建て替えよりも約5分の1の費用で済んだとのこと。

約250年という年月を超えた敷地内には、様々な庭木が背を伸ばし地域のグリーンスポットにもなっている。相続などによって土地が売却され、敷地が細分化された建売住宅が供給されることで災害危険度が増している地域があることを踏まえると、住環境を守る上でもこうした取り組みは大切。成熟した社会が到来した今、こうした古い建物を活かす手法が、ますます注目されそうだ。

 

編集付記  利用価値の高い土地の古民家について誰に相談するのがベストか?。仲介会社なら「売りましょう」、賃貸会社なら「貸しましょう」、ハウスメーカーや設計会社なら「建替えましょう」、ディベロッパーなら「売ってください」、それぞれの事業ドメインがあるので立場によって提案が異なるのは致し方ないところだ。こうした中、頼りになるのが様々な選択肢の中から提案できる不動産コンサルタント。三井不動産レッツ資産活用部のような顧客の意向に添った提案ができる会社は、そう多くない。建築費の上昇で必ずしも建て替えることがベストで無くなっている昨今。不動産会社の提案力が、ますます求められそうだ。