平成31年地価公示が発表されました。三大都市圏以外の地方圏でも住宅地が平成4年以来27年ぶりに上昇に転じるなど、全国的に地価の回復傾向が広がっています。
地価公示・・・地価公示法に基づき、都市計画区域等における標準地の毎年1月1日時点の正常価格を国土交通省土地鑑定委員会が判定・公示するもの。公示価格は、一般の土地の取引価格に対して指標を与えるとともに、公共事業用地の取得価格の算定等の規準とされる。
札幌市・仙台市・広島市・福岡市の地方4市が3大都市圏を超える上昇率
平成31年1月1日時点の地価動向としては、全用途平均が4年連続で上昇し、上昇基調を強めています。用途別では、住宅地は2年連続、商業地は4年連続で上昇。東京圏・大阪圏・名古屋圏の三大都市圏では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも各圏域で上昇が継続しています。
また地方圏では、住宅地が平成4年以来27年ぶりに上昇に転じました。国土交通省が挙げる要因としては、景気回復、雇用・所得環境の改善、低金利環境の下で交通利便性等に優れた地域を中心とした堅調な住宅需要。オフィス市場の活況、外国人観光客増加による店舗・ホテル需要の高まりによる再開発需要などです。
2019年地価公示 圏域別・用途別対前年平均変動率の表を見ると3大都市圏以上に地方圏の地方四市の変動率が高いことを示しています。地方四市とは、札幌市・仙台市・広島市・福岡市の人口100万人を超える政令指定都市。地方圏では、依然として住宅地・商業地ともに下落している県も目立ち地価上昇が一律でないことを示しています。
この一年、福岡市や広島市を訪ねましたが、街の変貌には驚きます。人口100万を超える両市ですが、街がコンパクトで暮らしやすい。豊かな自然が身近にあり大宰府や宮島といった文化資産があるのも共通点です。再開発によって供給されたマンションの売れ行きも堅調で、都市の厚みを感じます。
北海道や沖縄が上位 インバウンド需要や再開発が地価トレンドに影響
全国変動率(商業地)を見ると昨年は、銀座がランクインしていた首都圏の地点が消え北海道や沖縄、大阪などが上位を占めます。外国人観光客で活況のニセコの影響が大きい倶知安町や梅田、祇園などの上昇が大きくなっています。
2019年の訪日外客数は、前年比で8.7%増加の 31,191,900人(出典:日本政府観光客 推計値)。世界における外国旅行需要の高まりやアジア諸国の経済成長、所得に占める移動コストの低下などの背景もあり、こうした需要は今後も拡大すると思われます。
首都圏では、再開発が進む渋谷区を抑え台東区が上昇率トップに
首都圏では、相変わらず都心エリアの上昇トレンドが商業地・住宅地ともに続いていますが、中でも顕著なのが台東区・荒川区といった都心アクセスの良い下町エリアの価格上昇です。
東京23区の変動率を見ると住宅地の1位が荒川区、2位が台東区、3位が北区。商業地では1位が台東区、2位が江東区、3位が荒川区となっており再開発で注目されている渋谷区や港区を上回っています。
東京圏の商業地上昇率トップは、浅草駅近くの「台東区浅草1-1-2」の34.7%。2位が浅草寺近くの「台東区浅草2-34-11」の24.9%、3位が浅草ROXの向かい側の「台東区西浅草2-13-10」24.8%が続きます。台東区は、インバウンド需要の増加の影響を強く受けているエリアで、訪日外国人が訪問した場所(複数回答:平成29年国別外国人旅行者行動特性調査)で「浅草」は「新宿・大久保」56%「銀座」49.7%に次ぐ3位の45.7%です。
台東区は、ホテル建設を促す地域が多く、現在ホテルの開発ラッシュとなっています。昭和通り沿いや国際通りといった幹線道路沿いだけでなく、一本入った視認性が高くない場所にもホテルが着工されています。野村不動産、コスモスイニシア、三菱地所レジデンス、フージャースコーポレーションなどマンション事業の比重が高い企業の参入も見られマンション用地との競合が激しくなっています。
「NOHGA HOTELUENO」は、上野駅徒歩3分、台東区東上野にオープンした野村不動産が企画したホテル。全130室で「地域との深いつながりから生まれる素敵な経験」をコンセプトに、地域の文化を感じられるよう、地域の職人やデザイナーと連携したオリジナルのプロダクトやアートなどを各所に配置。製作しているショップや工房をゲストに紹介。プロダクト、アートの一部はショップにて購入もできます。
もともと、関東大震災以降の区画整理によって道路幅が広くかつ商業地が多いことで容積率が大きく開発しやすい場所。インバウンド需要と相まって、土地の取得ニーズが高くなっています。
また、日暮里駅のある荒川区や赤羽駅がある北区は、都心における土地の商業利用の高まりで住宅が建設しにくくなる中で、今まで以上に居住エリアとしても注目されています。
台東区は、古くは徳川家の菩提寺である寛永寺と浅草寺があることで、その間を多くの人が行き交い発展しました。第二次世界大戦の疎開で大きく減少したのち戦後30万人を超えた人口は、郊外エリアの住宅開発で減少しましたが都心回帰の流れの中、人口の伸びが顕著です。
国立西洋美術館や東京都美術館、上野恩賜公園、隅田公園など文化・レジャースポットも豊富で、内需・外需ともにニーズが高い地域であることも高い地価上昇につながっているのでしょう。
都心や郊外の駅前立地など利便性が高い土地は、マンション供給しにくくなる
駅アクセスが良くスケールのある土地は、ホテルや商業施設として利用されるケースが増えると考えられます。現に和光市駅など郊外の駅前再開発でもホテルを計画するケースが目立っています。
都心エリアの好立地は、用地の取得がもともと容易ではありません。マンション以外の需要の高まりは今後の供給動向にも大きく影響を与えそうです。