【LIFULL HOME’S 住みたい街ランキング】の2021年版が発表されました。 LIFULL HOME’S に掲載された賃貸物件・購入物件のうち、問合せの多かった駅名をそれぞれ集計し LIFULL HOME’S 総研が分析したもの。コロナ禍を受けて、初めてのランキングです。賃貸・購入を比べると異なる動きが。ランキングの結果と傾向を紹介します。
賃貸は郊外化 不況を反映してか家賃を下げる動きが顕在化
2020 年は年間を通して新型コロナウイルスの感染拡大が物件検索や問合せにも大きな変化を与える結果となりました。三密を避ける「ステイ・ホーム」という新しい生活様式の中で、仕事や学校もテレワークやオンライン授業が定着し、比較的住み替えしやすい賃貸ユーザーの問合せは郊外化の傾向が鮮明になりました。なかでも、『2021 年 首都圏版LIFULL HOME’S 借りて住みたい街ランキング』で1位になった「本厚木」を筆頭に、「千葉」「柏」「町田」など、準近郊・郊外でも都心方面へ乗換なしでアクセス可能な路線沿いの駅が軒並み大きく順位を上げています。上位以外でも、前回調査で 141 位だった「木更津」が 41 位に、117 位だった「湘南台」が 53 位に、134 位だった「茅ケ崎」も 62 位とベスト 100 圏内に上昇し、賃貸ユーザーの郊外化が顕著に現れています。
対照的に、前回まで 4 年連続 1 位の「池袋」が 5 位に後退したのを始めとして「川崎」(3 位→10 位)、「三軒茶屋」(6 位→16 位)、「吉祥寺」(9 位→18 位)など、都心周辺の人気エリアが軒並みランクダウンとなりました。
上位の駅の賃料相場を見ると、上昇した街の賃料相場が比較的安く、下落した駅の賃料相場が相対的に高い傾向に。コロナ禍の経済情勢の低迷を受けて、賃料が安く広い街を探す動きが強まったと言えます。
【首都圏版解説:LIFULL HOME’S 総研 副所長 チーフアナリスト 中山登志朗】コメント
1 位の「本厚木」を筆頭に「千葉」「柏」「町田」などがランキング上位に登場し、準近郊・郊外でも都心方面へ乗換なしでアクセス可能な路線沿いの駅に多くの人が関心を寄せるという”郊外化”の傾向が鮮明になりました。総務省が 1 月 29 日に発表した住民基本台帳人口移動報告では、2020 年の東京都への転入超過数は約 3.1 万人と 2019 年の約 8.3 万人から 62.5%も大幅減少しました。東京都では 2020 年 7 月以降 6 カ月連続で転出超過=人口の流出が発生しており、“脱・都心”の傾向が明らかです。テレワークやオンライン授業の拡大により、必ずしも便利な都心周辺に居住する必要がなくなれば、感染リスクを避けて意向が郊外化するのは当然のことと言えます。
ただし「都心と同じ家賃でより広い賃貸物件へ」ではなく「都心と同じくらいの広さでより安価な郊外の賃貸物件へ」という住み替え傾向が多く見られます。これも新型コロナウイルスの影響で、雇用や所得に関する今後の不安が拡大していることが理由として考えられます。こうした、賃貸ユーザーの「脱・都心」および「郊外人気増」の傾向は、新型コロナウイルス感染拡大の状況次第ですが、「より安心して生活したい」という思いや、テレワークやオンライン授業の定着によって、今後もある程度続くのではないかと考えています。
新型コロナウイルスがきっかけとなり、これまでの利便性最優先の生活スタイルを見つめ直し、利便性だけでない、生活のゆとりや地域コミュニティとのかかわりなどに気持ちを向ける機会になり得る可能性があります。新型コロナウイルスの影響が長期化するほど、こういった生活スタイルの変化も進む可能性が高まりますが、今後ワクチン接種などで終息に向かうと、再び利便性重視のコロナ以前の生活スタイルに戻り、都心近郊エリアに意向が徐々に戻ってくるものと考えられます。首都圏における賃貸ユーザーの意向の郊外化が今後も拡大するか、それとも一過性のものに終わるのかは、まさにコロナ次第ということになりそうです。
購入は、「都心周辺」と「準近郊エリア」の二極化に
『2021 年 首都圏版 LIFULL HOME’S 買って住みたい街ランキング』1 位は、2 年連続で都営地下鉄大江戸線の「勝どき」となりました。駅周辺にはオリンピック・レガシーとなる選手村跡地の大規模プロジェクトが進行中であり、その動向も含めて高い注目を集めていることがわかります。同様に、前回 19 位から 2位に急上昇した「白金高輪」、同じく 210 位から 19 位にジャンプアップした「牛込柳町」など話題性の高い分譲物件のあった駅は順位を大幅に上げており、都心一等地の人気はコロナ禍でも衰えていない事が明らかです。これは新型コロナウイルス収束後を想定し、利便性と資産性の高い都心周辺に買っておきたい、もしくはコロナ禍だからこそ、仕事への移動の際に密を避けるため公共交通の利用を極力避けたく、移動の少ない都心周辺で生活したい職住近接などのニーズによるものと思われます。
一方で「八王子」「柏」「橋本」「平塚」などテレワークの進捗に対応して新型コロナ感染回避をイメージした準近郊・郊外も上位に登場しています。都心周辺の賃貸から購入して転居する例も見受けられます。
【首都圏版解説:LIFULL HOME’S 総研 副所長 チーフアナリスト 中山登志朗】コメント
購入ユーザーは、比較的住み替えしやすい賃貸ユーザーの意向とは大きく異なり、一度物件を購入してしまうと簡単には買い替えできないという特有の心理が働き、賃貸ユーザーのように郊外に関心を寄せるユーザーは少数派です。購入ユーザーのニーズは依然として利便性重視が多数を占めており、「コロナ禍でも資産性が高く維持されると期待できる都心や周辺の人気エリア」に多くの関心が集まっています。コロナ禍だからこそ職住近接で公共交通機関を使わずに通勤・通学可能な都心周辺に住みたい、もしくはテレワークで毎日会社に行かなくなった故に余計通勤時間が無駄に感じる、といった新たな購入ニーズも生み出しています。
ただし、購入ユーザーも新型コロナウイルスのリスクを軽視しているわけではなく「(資産性が大きく下がらない程度に)通勤・通学可能な準近郊のベッドタウン」への関心も高まっていることがランキング結果から明らかです。購入ユーザーの意向は「都心周辺の利便性&資産性の高いエリア」と「生活環境が整っていて安心して暮らせる準近郊エリア」に二極化していることが分かります。このように、比較的容易に住み替え可能な賃貸ユーザーと、一旦購入すれば特定のエリアに相応の期間住み続けることが前提となる購入ユーザーでは、居住エリアの選択について大きな違いがあることが明らかになりました。特にコロナ禍であるからこそ、それぞれの意向の違いがさらに浮き彫りになったものと考えられます。
新型コロナウイルスに対する不安や恐れは同じでも、対策として住み替えをイメージするのか否か、もしくは具体的に検討するのか否かという点で、賃貸ユーザーと購入ユーザーの特性が顕在化したと見ることができます。
《参考データ》首都圏版 LIFULL HOME’S 住みたい街(駅)ランキング 2021年版
【編集後記】
【LIFULL HOME’S 住みたい街ランキング】2021年版の発表模様を、当日ズームで視聴させていただきました。コロナ禍は、良くも悪くも多くの人に住まいの重要性を再認識させるきっかけとなったと思います。ある意味で住まいは、人生における問題解決の手段とも言えます。ランキングの中でも買いたい街は、様々な個性的な街が入っています。横並びで考えるのではなく、自分に合った価値ある住まいを是非選択してください。