三井不動産が、青木茂建築工房と手掛けた築 50 年になる旧耐震賃貸住宅をリファイニング建築により再生した「シャトレ信濃町」が竣工しました。建築当初にはなかった日影規制等の建築基準法の適用を受けることに伴い、建替えると建物規模が縮小されます。
十分な事業性能が確保できないといった課題をリファイニングで解消。建物の外形を変えることなく再生しいまの賃貸マーケットニーズに合わせた間取り構成や商品企画としたことで新築に近い賃料設定を実現しています。竣工した現地を訪ねリファイニング建築で再生した「シャトレ信濃町」の魅力を紹介します。
物件概要
所在地: 東京都新宿区信濃町 3-1
交通: JR 中央線「信濃町」駅徒歩 7 分 丸の内線「四谷三丁目」駅徒歩 8 分
用途地域: 第一種中高層住宅専用地域
敷地面積: 968.46 ㎡
用途: 賃貸住宅(32 戸) 店舗 1 戸 ※従前(21 戸)
構造: 高層棟 SRC 造、低層棟 RC 造
延床面積/建築面積: 2,610.42 ㎡/405.86 ㎡
補強計画:耐震壁の新設により耐震指標 Is 値 0.6 を確保
設計会社: 株式会社青木茂建築工房
施工会社: 大末建設株式会社
改修竣工予定日: 2022 年 4 月末予定(既存建物 1971 年築)
既存躯体を改修・補強し再利用 建替えに比べCO2を72%削減
「シャトレ信濃町」では既存躯体を補修、補強したうえで84%を再利用することで、建替えと比較し事業費低減、工期短縮を実現するとともに、東京大学との共同研究により建替えの場合と比較して、CO2を72%削減することが判明しており、脱炭素社会の実現にもつながっています。
既存建物の特性を生かし、単に新築同等に再生するのではなく、承継すべきものにも着目した共用部の再生計画が特徴です。例えば、従前より建物入り口にある緑豊かな植栽は、施工計画段階から植栽への影響を最小限にするよう配慮し、庭園の景観を承継する計画に。外構にあった背の高い大理石の塀は、周囲との関係性を踏まえて低く植栽との連続性を感じるものに変更。大理石の部材は、撤去せずに屋内空間の素材として活用しています。
また、エントランス周辺は、時代のニーズに合わせて計画的、意匠的再生を図り、従前の応接室を、既存の庭園を最大限活かせるよう住戸へ用途変更。各フロアは、従前の各階3LDKを3戸配置する構成を、各階1LDK~2LDKを5戸配置した多彩なバリエーションを設けた間取り構成に。賃貸市場のニーズを踏まえ、事業性能の向上および安定稼働の実現を図っています。
また、本計画を実現するため、一般的なブレースを使用する耐震補強に対して、青木茂建築工房の間取り構成を考慮した耐震補強計画も大きな特徴です。耐震性を上げるために行うことは、軽くすることと強くすること。バルコニーのコンクリート壁や屋内の壁を撤去する一方で、構造を強くするための耐震壁や炭素繊維などで梁の強化を施しています。リファイニング建築に豊富な実績のある青木茂建築工房ならではの建築です。三井不動産とのリファイニングプロジェクトは6棟目。今回も両社の提案力の確かさを感じました。
既存不適格ならではの開放感 使いやすい間取りにカスタマイズ
「シャトレ―信濃町」は、第一種中高層住居専用地域に立地し、いまの法規制では5階建て程度の建築しか建てられなくなっています。よって、周囲に高層建物が少なく4方向共に開放感があるのが特徴。角部屋比率が高く東西南北に開口部があるプラン構成ですが、中層階からも開放感を享受できます。
建物の構造は、従前の直床から二重床二重天井に変更。どの住戸もスッキリした開放的なつくりに仕上がっています。開口部に構造体を設置する耐震補強と異なり、構造計算によって居住性も損なわない提案が、リファイニング建築の特徴です。
モデルルームを訪ねて感じたのが、新築マンションとも遜色ない使い勝手の良いフレキシブルなつくり。吊りタイプの可動間仕切りを用意することで、プライベートとパブリックをボーダーレスに使えます。また、どの住戸も開口部が広いので採光性に優れ居心地よい印象です。バルコニーの手摺りを光を通しやすいポリカーボネイト製のものにしている効果です。
なお、2LDK タイプには天井カセット式エアコンを採用。1階の住戸は、庭が借景となるなど住戸条件によるつくりのカスタマイズは、リファイニング建築ならではだと感じました。
なお、三井不動産がサブリースによって一括で借り上げて入居者に転貸します。一定期間事業性が担保されるのは、オーナーにとっても安心でしょう。
リファイニング建築には、オーナーから見て様々なメリットがあります。まず、建て替えに比べコストが抑えられること。構造躯体を再利用するので本プロジェクトの場合、約3割程度コストを抑えられます。
もう一つは、工期が抑えられること。建て替えであれば、建物全体の解体も必要になり、3年程度は要したところ今回は、おおよそ1年余りで完成しています。収益を得られない期間を短縮できるのはとても経済的です。
さらに、従前の建物の強みを損なわれないことで、上層階は新築の賃貸と遜色ない価格設定での募集が可能になっています(おおよそ坪賃料が1万6千円強)。
現在賃貸募集中ですが、四ツ谷3丁目駅へも歩ける好立地ということもあり反響は堅調なようです。新築賃貸市場では、供給の少ない50㎡前後のゆったりした間取りという点も評価されているようです。
なお、リファイニング建築の特徴を実際に見学することを目的としたリファイニング建築サロンを同物件内にオープン(5月17日~7月下旬 ※予定)。従前と比較した内外装のデザインや設計のポイントや建物調査・補修や耐震補強等、目に見えない改修の内容をパネルやサンプルで確認できます。
SDGsが叫ばれるなか、資源価格の上昇により環境面だけでなく経済面でも既存の建物を活かすことに注目が集まっています。法人などからの問い合わせも増えているとのことで、今後ますますリファイニング建築は注目されると思います。