2022年のグッドデザイン賞が発表になりました。グッドデザイン賞とは、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する表彰制度。製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、その質を評価・顕彰しています。主催者によれば、デザインの優劣を競う制度ではなく、審査を通じて新たな「発見」をし、次なる「創造」へ繋げていく仕組みです。近年は、マンションや住宅だけでなく、街づくりや防災支援、コミュニティ形成など様々なシステムやサービスも受賞しています。住宅領域の受賞作の一部を受賞者と審査のコメントと併せて紹介します。
ザ・パークハウス 鎌倉 居住空間に鎌倉の風景を取り込む
「ザ・パークハウス 鎌倉」概要
所在地:神奈川県鎌倉市小町2丁目351番(地番)
構造・規模:鉄筋コンクリート造地上5階地下1階建
住 戸 面 積:74.63㎡~199.28㎡
総戸数:23戸
事業主:三菱地所レジデンス株式会社
施工:東急建設株式会社
管理会社:三菱地所コミュニティ株式会社
竣工:2021年12月
本物件は、鎌倉市の歴史的シンボルである八幡宮参道の若宮大路に面する特殊な立地であることから、歴史性や景観を尊重し街の景色に調和するデザインを図った。鎌倉市を通じて、景観まちづくり団体やまちづくりに取組む地元住民の街への強い思いを受け止めながら、建物自身のデザイン性だけでなく、街の賑わい創出や周辺環境の継承といった、鎌倉市や周辺住民、観光客と多種多様な「鎌倉のファン」への配慮が求められた。西側(若宮大路側)は多くの観光客が行き交い、東側(小道側)は周辺居住者が生活動線として利用していることから、色彩や素材等街並みに調和しながらも水平窓等を活かし、どの方角から見ても建物の“顔”として映るよう象徴的な外観デザインを意識した。また、観光客で賑わう西側には店舗を配置すると共に、建物は東側をセットバックすることで周辺建物との調和を図った。
(評価コメント 抜粋)
鎌倉は、奥行きの深い歴史を背景に、観光と居住が近接して存在する都市構造になっており、都市景観の維持とともに地元住民の生活環境の保全に対する対応が求められている。緑量も多く低層建築が大半を占める鎌倉において、中規模マンションの建設となれば、地域住民に対する丁寧な説明と配慮が必要であろう。ここでは庇の設置やセットバックによる周辺環境との馴染みをよくする仕掛けや建物自体の色彩など、随所に思慮深いデザインが実現している。逆梁によって可能となった天井高さ一杯の開口部によって、庇の水平性と内外の空間の連続性が強調され、居住空間にも存分に鎌倉の豊かな風景を取り込んだ端正な住宅建築である。
Brillia 北山 大きな門型のフレームに、スラブや界壁を分節
「Brillia 北山」概要
所在地:京都府京都市北区上賀茂桜井町 100 番
総戸数:22 戸
構造/建物階数:鉄筋コンクリート造 / 地上 5 階、地下 1 階
事業主:東京建物株式会社
設計・監理:一級建築士事務所 東洋設計事務所
施工:かねわ工務店
竣工:2021 年 9 月
北山通に位置し、京都府立植物園を目の前に望む分譲マンション。著名建築家が手がけた建物が並ぶ、瀟洒な北山通りの街並みと豊かな自然を享受できる立地特性を踏まえ、街並みを形成する洗練されたファサードデザインの実現と居住性能を確保した新たな居住空間の両立を目指した。
(評価コメント 抜粋)
京都の北山通と言えば、バブル景気を背景に 1980~90 年代に高松伸・安藤忠雄といった有名建築家の建築が立ち並んだエリアだと記憶している。ポストモダン全盛期で建築デザインも都市景観としては少々考え込んでしまうものも多かったが、情報によれば近年その相当数が更新されつつあり、北山通も大きく変わりつつあると聞く。そんな歴史的経緯の延長上にこの住宅があるが、時代も社会状況も変わった中で、実に端正で美しいデザインである。大きな門型のフレームの中に、スラブや界壁を巧みに分節しながらファサードを構成し、周りに広がる豊かな緑量を取り込む大きなガラス面が、建物全体のボリューム感を和らげ、街の風景に溶け込む佇まいが実に爽やかだ。全体からディテールまで神経の行き届いた優れたデザインである。
パークコート白金長者丸
「パークコート白金長者丸」概要
デザイナー:UDS 株式会社
株式会社ヨシモトアソシエイツ
設 計:株式会社アトリエシープ設計事務所
施 工:西武建設株式会社
恵比寿と目黒の間、由緒ある白金長者丸エリアの一角に位置する総戸数 34 戸、地上 7 階建ての分譲マンション。長い歴史を持つ都内屈指の屋敷街にありながら、現代の価値観に合った建築、タイムレスな空間を追求しました。また、通りから引きの取れたアプローチにより周囲と一線を画した結界性を有し、近接する国立科学博物館附属自然教育園や東京都庭園美術館と響きあう植栽計画・アートを敷地内に設えることで、唯一無二の歴史性や文化的な環境を好むお客様に共感される邸宅を目指しました。
(評価コメント 抜粋)
森に隣接した白金長者丸にある低層の住宅地に、近接する自然教育園や庭園美術館の空間性を引き込み、美術館の中に 34 住戸があるイメージで設計された大変興味深い計画である。この美術館というイメージを空間体験として実現するために、軸線を計画し、その先にアートや庭を配置する計画とすることで、先に進みたくなる連続した展開が生まれている。外部の路地の素材を建物内部まで引き入れている点も連続性の展開として見事である。単調なファサードや住み方にならないように 27 タイプの間取り計画とし、多様な住まい方ができる可能性を創出していることも秀逸である。今後も周辺環境やその場所がもっているポテンシャルを活かして、地域をより良くしていく姿勢の継続を期待したい。
「プラウド高田馬場」
本件は、JR 山手線高田馬場駅徒歩 4 分の神田川沿いに建つ分譲集合住宅。川沿いの土地は、かつては生活の中心。歴史的にも人が集まりやすく、風も通りやすい環境。環境保全が進み、昔の姿に戻りつつある神田川沿いの集合住宅としての在り方を再考した、都心型環境共生型住宅としての提案。
(評価コメント 抜粋)
高田馬場駅から徒歩圏内の高層の大学や専門学校、集合住宅などが建ち並ぶ地域に、神田川からの風を意識した形状で、風を周辺環境へ通しながら、各居住空間にも引き込む大変優れた計画である。曲面の敷地形状を活かしながら、手すりを分節しその隙間から風を引き込んでいる。手すりの素材はガラスとし、道に対しての圧迫感を軽減していることも秀逸である。共用空間として共働き世帯をイメージしながら、憩い、働き、暮らせる、多世代がほど良い距離感でいられる場を創出したことは、良好なコミュニティの形成が促進されるだろう。今後、神田川沿いに流れる風を意識した都心型環境共生型住宅という価値が人々から共有され、この建築が起点となり、より一層の神田川の水質改善や親水空間の創出といった、副次的な地域環境の向上に繋がることも期待されるのではないか。
「金澤雅壇(ライオンズ金沢武蔵)」
「歴史都市金沢のまちづくり」の理念に基づき、「金沢駅武蔵南地区第一種市街地再開発事業」として、施設開発と緑豊かな歩道空間や歴史的空間の再生を官民連携により実現しました。これにより、住宅のある民有空間と歩道や広場のある公共空間が一体となり、「金沢駅通り線」と「金石街道線」の二つの主要幹線道路がつながれ、新たな街の回遊動線を生み出しました。 「ライオンズ金沢武蔵」は、金沢市街地を望む地上約60m、140戸(住居138戸、店舗2戸)を擁する高層マンションで、商業利便性が高いエリアに立地します。高さ約6mのガラスウォールのある2層吹き抜けのエントランスホールの先には、居住者以外の方も集える地域コミュニティーの機能を持つセンターハウスを設置しました。住戸フロアは、内廊下設計で高級感と高いセキュリティー性を持ちます。
(評価コメント 抜粋)
都市の歴史や景観の継続性を担保することがなかなかに難しい市街地再開発事業でありながら、官民が効果的に連携することで、金沢の文化や風景を受け継ぎ、その境界を感じさせない一体的な空間整備を実現できた好例である。隣接して位置する歴史遺構の復元や、官民境界を跨いでの舗装デザインの一体化、アーケードの張り出しなどは、言うは易しで、官民エリア毎の工事分離発注となるケースも多く、それぞれの予算に合わせた素材選定や、工事スケジュールの調整など、かなりハードルが高い。さらに、遺構保存に関しては、文化財関係の官公庁や部署も加わり、手続きも煩雑で時間もかかることから、本事業のプロジェクトマネジメントは、相当高度な調整が図られたものと想像する。金沢の歴史や風景に配慮した丁寧な建築デザインも含めて、深く敬意を表したい。
「グランドメゾン新梅田タワー THE CLUB RESIDENCE」
「グランドメゾン新梅田タワー-THE-CLUB-RESIDENCE」物件概要
事 業 者:積水ハウス株式会社/三菱地所レジデンス株式会社/東急不動産株式会社/東京建物株式会社/
エヌ・ティ・ティ都市開発株式会社/株式会社アサヒプロパティズ
所 在 地:大阪府大阪市北区大淀南 2 丁目 2-9
交 通:JR 京都線・神戸線・宝塚線・大阪環状線「大阪」駅 徒歩 14 分、JR 大阪環状線「福島」駅 徒歩 8 分、阪神本線「福島」駅 徒歩 10 分
敷地面積:10,337.43 ㎡
延床面積:99,658.78 ㎡
総 戸 数:871 戸、店舗 3 区画
構造規模:RC 造一部 S 造 地上 51 階地下 1 階建
竣 工:2021 年 6 月
設計・監 理:竹中工務店大阪一級建築士事務所
施 工:竹中工務店
大阪の都心において、35 階に屋外空間「スカイテラス」を創出するなど 3,600 ㎡超の緑豊かな公開空地を設け、871 戸の超高層集合住宅を核に、商業・保育所・にぎわい文化・防災の複合的な機能をもたせました。多世代・地域の人たちが豊かに暮らせる「都市型コンパクトタウン」を創出しました。
(評価コメント)
発展が期待される、大阪「大淀南地区」エリアの大規模開発の計画である。敷地内には 3,600 ㎡超という広大な公開空地を設け、地域住民に開かれた緑豊かな公園を創出。この公開空地は、地域の憩いの場であるだけでなく、防災広場としての役割も持つ。周囲のコンテクストを丁寧に読み込んだ配棟計画は、商業だけでなく保育所や文化施設など、様々な機能がコンパクトに凝縮されていて、それ自体が街のようである。大規模開発においては、地域との関係をどう創るかが大きな課題であるが、在来種を中心とした公開空地の緑が大きく育ったとき、この住宅はより地域に溶け込んだ「ひとつの場所」になっていくであろう。
シティハウス二子玉川ザ・グランド
シティハウス二子玉川ザ・グランド 概要
所在地:東京都世田谷区玉川二丁目
構造・規模:鉄筋コンクリート造地上5階地下1階建
総戸数:31戸
事業主:住友不動産株式会社
施工:多田株式会社
竣工:2020年11月
都市部の低層物件でありながら高反射ガラスを採用し、ファサード面に街並みや雄大な空を映しこむことで、街への開放感を与えつつ居住空間への視線を制御しています。その結果、歩行者からの視線を気にせず、日中でもカーテンを開けて過ごせる「内側からの開放感」を叶えました。青空と一体化するガラスと構造フレームを切り替えたリズミカルなファサードにより、街に新たな景観を生み出します。
(評価コメント)
二子玉川駅から徒歩圏内、中層の共同住宅が建ち並ぶ地域で、リビング・ダイニングの開口を高反射ガラスとすることで、光を最大限に内部空間に取り込み、街並みとしては空などの周辺の風景が映し出されることで、道への圧迫感を和らげている優れた計画である。単調なファサードや住み方にならないように、多様な間取り計画とし、奥行きのあるバルコニーは人の居場所として多様な使い方の拡張性が想像でき秀逸である。駐車場を機械式とすることで道路側を駐車場に埋め尽くされないように配慮し、道路に植栽を施し、そこに隣接してエントランスホールを配しているゾーニングには、街に彩りやアクティビティをもたらす波及効果も見込めるであろう。
その他の主な受賞物件
● パークホームズ登戸スクエア(三井不動産レジデンシャル)
● ザ・パークハウス 新浦安マリンヴィラ(三菱地所レジデンス)
● プラウド練馬中村橋マークス(野村不動産)
● プラウドシーズン成城コート(野村不動産)
● Brillia 京都松ヶ崎(東京建物)
● ライオンズミレス西新(大京)
● リーフィアレジデンス橋本(小田急不動産)
● ローレルスクエア長岡京ザ・マークス(近鉄不動産)
● リビオレゾン松戸ステーションプレミア(日鉄興和不動産)
● プレミスト京都西院(大和ハウス工業)
● MMフィールド南大高(大和ハウス工業)
● ジオ調布(阪急阪神不動産)
● オーベルグランディオ八王子エアーズ(大成有楽不動産)
● プライマルイプセ池尻大橋(モリモト)
● デュオフラッツ西新WEST/デュオフラッツ西新EAST(フージャースコーポレーション)
● ASTILE 麻布十番(アスコット)
その他の主な受賞サービス・システムなど
● 廊下における空間提案 [AKUNDANA](中央住宅)
● 共用木造棟から始まる、森林サイクル促進(野村不動産)
● 人と人とのちょうど良いつながりをつくる「 GOKINJO (ゴキンジョ)」(旭化成ホームズ・旭化成不動産レジデンス)
● 古⺠家再⽣・入居者専用シェア別荘『みなさと』(総合地所)
住宅領域で多くの受賞がある中、とくに印象に残ったのがグッドデザイン賞100に選ばれた中央住宅の「54棟建て住宅街区 [結美の丘]」。さいたま市の1号認定となる「景観協定」を定めるとともに、緑を育む空間や樹木等を街区内に計画的に配置。それらの管理や街の保全を住民の力で行い、もって街の経年美化やコニュニティーの成熟を図るものとしている。販売開始から10年、住民活動開始から9年の歳月を経て、街の景観とコミュニティーの深化は、今も継続的な住民活動により深められているという。ハード面だけでなく、長期視点に立った街づくりが住まいのデザインに求められていると深く感じた。