1967年竣工、総住戸数490戸の東京23区内最大級の大規模団地であった石神井公園団地の建替えプロジェクト「Brillia City 石神井公園 ATLAS」が竣工し、2023年11月19日に敷地内で街開きイベントが行われました。筆者は、当日行われたセレモニーなどを取材するとともにマンションを見学しました。
日本の住宅団地の多くは高度経済成長期に開発され40年以上が経過する中、老朽化、空き家の増加、エレベーターに代表される高齢化に対応した住環境の不足などの問題が顕在化し、社会課題のひとつとなっています。
国土交通省のデータによれば、日本全国の分譲マンション戸数は、694.3万戸。そのうち耐震性に課題があるとされる旧耐震基準で建てられたマンション戸数は、103万戸にも及びます。しかし、老朽化したマンションの建替えには、住民を含めた関係者の調整および同意が必要で石神井公園団地のように、計画が着実に進むプロジェクトは多くありません。今回は、街開きイベントの模様と、現地を訪ねて気づいた建替え成功のポイントを紹介します。
石神井公園団地の建て替え完了 地域と共に街開きイベントを開催
東京23区内最大級の大規模団地であった石神井公園団地は、竣工から相当年が経過し他の団地と同様に建物・設備の老朽化と住民の高齢化が進んでいました。こういった課題に向き合うべく、2007年に団地の管理組合が建替・修繕検討委員会を設置。以降、10年以上にわたり団地再生について勉強と検討を重ね、2019年に団地を建替えることを決める「一括建替え決議」を可決。
大規模団地ならではのサークル活動など旧住民のコミュニティの継承および建替え後の発展を企図。2023年9月に竣工した「Brillia City 石神井公園 ATLAS」では、住民の想いをつなぎ、歴史あるコミュニティを未来へ引き継いでいくことを目指している。
まちびらきイベント「SHAKUJII HAPPINESS FESTA」は、石神井公園団地に住んでいた人々、建替え後新たに住人となる人々、さらに地域との繋がりを創出することを目的に開催された。
会場で感じたのは、子供から高齢者まで幅広い年齢層が参加していること。新しい住民と思われる子供を連れた若いファミリーとともに石神井公園団地から移り住んだと思われる高齢者も多かった。総戸数490戸の石神井公園団地は、総戸数844戸の「Brillia City 石神井公園 ATLAS」に生まれ変わった。新たな分譲住戸は、543戸で此処に残ったかつての住人も多い。こうした街開きのイベントは、どことなく緊張感があるものだが、初回とは思えない寛いだ雰囲気があるのは昔からの住人が多いからだろう。
コミュニティづくりは、建物の竣工前からも始まっていた。石神井公園駅前にあった販売センター内に設けた交流拠点「シャクジイベース」は、プロジェクトの販売とあわせてオープン。様々な地域情報に触れられる情報ステーションとしての役割も果たした。団地の建替えには、実に3年もの期間を要していたがかつての住人も利用できる拠点を設けることでコミュニティを継承する役割を果たしてきた。
開催のはじめに、石神井公園団地マンション建替組合理事長の黒河内剛氏から以下の挨拶があった。
「順次部屋の引き渡しが行われ、既に多くの方に入居をしていただきました。今、マンション内を歩くと、赤ちゃんや小学生など若い世代の姿が多く見受けられ、非常に喜びを感じています。この世代の方々には、我々の世代から引き継ぎ、また次の世代へとこのマンションの伝統を引き継いでくれることを心から望んでいます。」
トークイベントでは、「みんなでつくろう!100年続くコミュニティ」をテーマに、評論家の山田五郎氏をはじめ、建替組合理事長の黒河内剛氏、非営利型株式会社のPolaris 代表取締役の大槻昌美氏、東京建物 プロジェクト開発部グループリーダーの大橋利安が登壇しトークを繰り広げた。
その中で、印象的だったのが黒河内氏からの「全住戸南方位であった石神井公園団地の環境をそのまま継承したいという前住民の意向があった」とのこと。「Brillia City 石神井公園 ATLAS」の建替えが上手く進んだのは、法規制などの制約を行政と調整しつつ全戸南向きを実現したことが大きいという。
また「夏祭りを行ってほしい」という声も多かったという。出店やステージを配置できるセンタープラザを敷地に設けたのは、そうした意向を反映してだ。
また、大槻氏からは、以下の「愛着が感じられるマンションになるための5ヶ条」が示された。
3条について大槻氏から「繋がりましょうというのを苦手とする方々も中にはいますので、一人でいることもできて、みんなといることもできる、という自分のその時々のライフステージや状況に合わせて“選択”ができるのが大事だと考えました。」とコメントがあった。
844世帯というスケールだから、一人一人が目立たず自由度が高い。筆者は、かつてコミュニティづくりの専門家から100戸未満だとグループで固まったりコミュニティづくりが難しいといった話を聞いたことがある。かつての石神井公園団地もそうだが、スケールがあったからこそ上手くコミュニティが育まれたのだろう。
筆者は、イベント前に敷地の外周部を回ってみたのだが、黒河内氏が言うように見事に南向きに配置され、どの住戸も日当たりが良いのが確認できた。
大規模マンションで良く見かけるのが、各棟の間隔が近く自己日影がかかってしまうマンション。容積率を消化するためにある程度、条件が厳しい住戸が出来てしまう。また、高さ制限がありロの字配棟になるケースでは、西向きや東向き住戸が多いケースもある。
冬の季節の朝10時頃だったが、低層階も陽が十分当たっていることが確認できた。雁行型で南向きだったかつての石神井公園団地もそうだが、誰もが日当たりを享受でき過ごしやすいというのはコミュニティづくりでプラスになるだろう。
マンション内には、ラウンジスペースのほかスタディルームやパーティールームなどの共用スペースも確保されている。サークル活動やイベントの話し合いなどもこうした場があればスムーズに運営できそうだ。
また、旧石神井公園団地からの入居者と新しい入居者の比率もおおよそ1対2の割合でちょうど良いと感じた。イベントなどのコミュニティづくりは、非営利型株式会社Polarisがサポートする。また、買い物施設もマンション内に誘致されていて、便利な暮らしができるのもプラスに感じた。
100年間続くコミュニティをつくるのは、容易ではない。筆者は、日本最古の鉄筋コンクリート造りの高層マンションと言われる軍艦島(長崎県端島)を訪ねたことがあるが周知のとおり炭鉱の閉鎖によって今は、世界遺産となっている。
「Brillia City 石神井公園 ATLAS」のポジションは、池袋や新宿といったワークプレイスにアクセスしやすいだけでなく、石神井公園という豊かな自然が身近にある稀有な場所だ。街開きに参加した家族の多さを見ると、コミュニティ意識の高い人が購入者の中心になっているのではなかろうか。既に一般分譲住戸の多くが契約済みとのことだが、現地を見ればプロジェクトの魅力を実感できるはず。こうしたマンションに関心がある家族は、現地を一度訪ねてみてはどうだろう。
編集付記 初めて竣工後の現地を訪ねたが、駅からの距離はあるものの石神井公園駅からのバスアクセスもスムーズで、暮らしやすそうな印象を受けた。石神井公園駅前では、これから再開発も計画されているので街のにぎわいはさらに増しそうだ。
石神井公園団地の建て替えが上手くいったのは、サークル活動やお祭りで住民のコミュニケーションが十分とれたから。価格帯が大きく異なる都心のタワーマンションでは、合意形成や技術的な面も含めて、将来の建替えは困難かもしれない。そう感じた今回の見学だった。