2019年10月12月に伊豆半島を上陸後に日本列島を直撃した台風19号は、記録的な降雨量で多くの河川の氾濫・決壊をもたらし広範囲なエリアに甚大な被害をもたらしました。
静岡県や関東甲信地方、東北地方を中心に広い範囲で記録的な降雨量に。10日からの総雨量は神奈川県箱根町で1000ミリに達し、関東甲信地方と静岡県の17地点で500ミリを超えました。
NHK(2019年10月15日17時16分発表)によれば台風19号により66人死亡 1人心肺停止 15人不明。豪雨によって、決壊した場所は7つの県で合わせて47河川の66か所にも上り未曽有の浸水被害が発生しています。
首都圏においても多摩川の氾濫によって二子玉川駅周辺や川崎市高津区などで浸水が発生。JR横須賀線「武蔵小杉」駅周辺が冠水し、一部のマンションで停電などの被害が出ています。「二子玉川」駅と「武蔵小杉」駅を訪ねで状況を確認。安全な街はどこかを考えます。
浸水地点は、洪水ハザードマップで示された場所 過去の浸水履歴も
10月15日午後、多摩川の氾濫で大きな浸水被害を被った「二子玉川」駅界隈を訪ねました。岸から溢れていた水流は収まり茶色だった川面も水色でどこか長閑な印象。しかし、一部に残る変色した高木や道路の汚れが数日前の氾濫を伝えています。
この辺りは、どんな場所なのでしょうか。多摩川の氾濫によって浸水した兵庫橋から玉川1丁目にかけてのエリアは、世田谷区が開示している「洪水ハザードマップ(多摩川版)データ」では浸水リスクが高い場所に指定されています。さらに、世田谷区の開示している世田谷区水害記録(平成元年~30年)の記録にも玉川アドレスの記載が複数あり(集中豪雨などによる)、浸水しやすい場所であることを示しています。
現地周辺で働く人に当時の状況を訪ねたところ、水かさは上記の高木あたりまできたようです。このあたりは、多摩川の浸食による河岸段丘。一定の高低差があるため、今回の浸水では「二子玉川」駅周辺や「二子玉川ライズ」は、被害はありませんでした。
また、浸水のあった多摩川沿いの玉川1丁目界隈もきれいに道路清掃が済んでいました。川に向かって高低差がある為、一定の場所までで被害は収まっています。
未曽有の規模の台風による豪雨により、荒川や多摩川など首都圏の一級河川で氾濫危険水位をオーバー。広範囲な浸水の一歩手前ともいえる状況でした。昨年の西日本豪雨でも実証されたように、高いところから低いところへ流れる水の特性もあり洪水ハザードマップは、災害時の浸水想定にかなり役立ちます。現居住地の浸水想定を把握するとともに、今後の住み替えの際には参考にするべきでしょう。
JR横須賀線「武蔵小杉」駅周辺が浸水 高低差で浸水状況にも微妙な差異
次に訪ねたのがJR横須賀線「武蔵小杉」駅周辺などが冠水した「武蔵小杉」駅周辺です。開発エリアが広範囲な「武蔵小杉」の中で、中原区図書館や武蔵小杉東急スクエアのある西側の冠水被害はなかった模様。また、複合商業施設「グランツリー武蔵小杉」も浸水には至りませんでした。店員さんの話では、営業を再開した日曜日の午後から多くの人でにぎわったようです。
しかし歩道に綱島街道に向かって進むと歩道に泥が残り台風の痕跡が見られます。綱島街道に向かってゆるやかに傾斜しており水は南方向へ流れます。こうした大きくない高低差が写真に映る建物の被害を抑えたと思われます。
一方、JR横須賀線「武蔵小杉」駅は一部が冠水しエスカレーターやエレベーターが故障。トイレも使用中止になっています(2019年10月15日16時時点)。室内の明かりが見えないマンションもあり、早期の復旧が待たれます。
「覆水盆に返らず」ということわざがあります。昨年被災した倉敷市真備町の被害は甚大でした。高梁川と小田川の水位上昇で小田川とその支川で堤防が決壊し広い範囲で浸水被害が発生。浸水面積は約 1,200haもあり全壊棟数約 4,600 棟にも及びました。そして全壊とされた棟数は、真備町を含む倉敷市で4,800棟を超えました。
もし、多摩川が決壊していた相当規模の被害になったでしょう。調節池やダムを使った治水の重要性を改めて感じました。
合板など純粋木材ではない資材を利用した戸建て住宅は、一度水没すると元の機能を維持するのは極めて難しい。正確な被害状況は、これから徐々に判明していきますが、被災した場所の多さから相当な規模であることは確かです。
水害に強い東京湾エリア 地震と水害に強い場所は、江戸城のある場所
洪水に対する備えとして確認したいのは、洪水ハザードマップです。加えて、東京では地震に対する安全性の確認については、地域危険度マップが参考になります。
東京都の洪水ハザードマップを見ると、荒川や多摩川、隅田川の周辺の洪水による浸水が表示される一方で、高台と共に浸水の影響を受けにくいのが東京湾に面したエリアです。例えば、中央区を見ると月島や勝どきといったエリアは、ほとんどの場所の浸水深が1m未満のエリアです(昨年の大阪湾のように台風が直撃した際の高潮リスクはあります)。
江戸城の濠があり高台に位置する千代田区は、洪水ハザードマップの浸水エリアが極めて少なく水害には強い場所です。中でも皇居のある千代田区千代田に至っては、ほとんど浸水深の印がありません。
東京都都市整備局が発行する「地震に関する地域危険度測定調査」によれば、千代田区はほとんどの地域の総合危険度が5段階で最も危険が低い1にランク。ブランド住宅地として人気のある番町は、一番町~六番町全てが総合危険度1です。都心のオフィス街も近いですし、予算を度外視すれば番町は安心して住める場所かも知れません。
東日本大震災の後に複数の建築や不動産の専門家3名に「東京で最も安全な場所はどこか」と聞いたことがありますが、3名とも千代田区の皇居周辺で一致していました。
徳川家康が江戸城を築いて400年余り、大きく発展した東京ですがその中心だった場所が安全な場所として挙がるのは、当然かもしれません。湿地帯が多く居住に適さなかった江戸の町を治水によって作り変えた徳川家康の街づくりは、明治43年の利根川・隅田川の決壊や大正12年の関東大震災を経て今も続いています。
国土の約7割を山地が占め世界平均の約2倍の降雨量があり水の恵みを享受する一方で、台風などの災害も多い日本。災害に強い街づくりは、今の時代を生きる私たちの使命かもしれません。
【編集後記】
故郷である倉敷市の西日本豪雨による被害状況を昨年7月に目の当たりにし、水害の恐さは深く心に刻んでいました。しかし、いざ身に降りかかってくると十分備えがあったとは言えません。
規模の大きな台風やゲリラ豪雨など発生を踏まえると、誰もが自然災害リスクを抱えているといえます。まずは、命を守る行動を、そして日本全体で被災した方を支援する仕組みが必要だと思います。
今回の台風によって被災された皆様ならびにご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興を祈念します。
【2020年7月9日】追記
2020年7月豪雨は、球磨川の氾濫など九州・西日本エリアに甚大な被害をもたらし今も危険な状況が続いています。浸水エリアはハザードマップにおおよそ一致しており、事前の備えの重要性が示されています。
毎年のように頻発する豪雨被害。被災された方々に深くお見舞い申し上げるとともに早期の復旧を祈念します。
日本赤十字社の寄付についてのページリンク↓
【2020年8月31日】追記記事